一人でビジネスを立ち上げる場合、個人事業主として開業するケースもありますが、法人を設立することも可能です。 個人事業主として事業を行う場合に比べて、会社を設立する方が社会的信用も高く、取引先の幅も広がりやすいです。
会社を作って社長になるときくと華やかな印象もありますが、一人社長として会社経営を行うためには強い意志と冷静な判断力が必要です。社長だからこそ抱える悩みややるべきタスクがあるのも事実です。
この記事では一人で会社設立をする際に知っておきたいポイントについて説明します。これからビジネスを始めたいが、一人社長として法人設立するかどうか迷っている方には参考になるはずです。
タスカル活用で成長期にある一人社長インタビュー記事もご覧ください!
1、一人社長とは?
一人社長とは、会社設立を社長が単独で行い、その後も社員を雇うことなく社長が一人で全業務をこなす経営者のことです。
会社ときくとたくさんの従業員が働いているのが一般的なイメージです。 ところが、法律上は社長一人だけの会社も認められています。このような法人は一人会社と呼ばれ、会社の持分や株式が一人の手に所有される会社を意味します。
具体的にはシステムエンジニアやマーケター、ライターなど社長が個人で業務を請け負って納品までの全業務を自分だけで行うような場合です。IT化の進展とともに個人としてこれらの業務を請け負う人は増加しており、法人設立へのニーズも高まりつつあります。
2、一人会社設立が増加した背景と一人会社の法人形態とは?
(1)新会社法の制定
一人会社の設立は2006年に成立した新会社法が関連しています。新会社法では旧会社法に比べて法人設立を活発化するための改正がなされたのです。
例えば、旧会社法では株式会社を設立するためには資本金1000万円、取締役は3名が最低限必要なラインでした。
これに対して新会社法では、資本金は1円、取締役1人という条件をクリアすれば法人を設立できるようになりました。新会社法のおかげで役員数の縛りがなくなり、一人会社の設立が可能となったのです。
(2)一人会社を設立できる法人形態
株式会社、合同会社、合名会社の3つが一人会社を設立できる法人です。
・株式会社:株主から資金を集めて株式を発行し、集めた資金で事業を行う法人形態です。
最も一般的な法人で現在の経済活動の根幹を成しています。
・合名会社:社員が資金の出資者となり、会社の債務について連帯責任を負うことが特徴です。
合名会社においては社員が実質的な無限責任を負うことになります。
・合同会社:社員全員が有限責任社員であることと、経営者と出資者が同一であることが特徴です。
設立の手続きが簡易で費用も安価です。小規模な起業に適した法人形態と言えます。
3、個人事業主と一人社長はどう違うのか?
一人社長となると小さくとも会社組織になります。 このため様々な点で個人事業主との違いが生じます。
取引において一人社長の場合「法人」が契約の主体となります。これに対して個人事業主の場合「事業主個人」が契約の主体となります。
取引によって得た収益も一人社長の場合、社長が直接受け取るわけではありません。法律上、収益はいったん法人の所有となり、その後給与として会社から社長に支払われる のです。
4、一人社長のメリット
(1)社長の責任が限定的になる
個人事業主は事業から生じた債務を全て負担しなければなりません。法律上は無限責任を負うとされます。自分の財産をすべて売り払ってでも全ての債務を返済しなければならないのです。
これに対して一人会社では、会社と個人は法律上別人格として扱われます。 会社がどれだけ借金を負ったとしても個人が返済義務を負うことはないのです。責任を負う範囲は会社の出資金の範囲に限定されます。
会社設立時に資本金を定めるのですが、この資本金の金額が責任の範囲です。法律上これを有限責任と言います。
(2)節税方法が増える
個人事業主に比べて法人は様々な節税方法を使えます。損失繰越も最大9年まで可能です。個人事業主の場合、最大3年であるのと大きな違いです。また法人であれば出張旅費や社宅、退職金を活用した節税対策も行うことができます。
一般的に年間売り上げが1,000万円を超えると非常に高い節税効果を享受できます。 事業規模の拡大に伴って節税効果も高まるのです。
(3)自由な働き方が可能
社長として勤務する以上、全て自分の裁量で決めることができます。 どこで、どのような仕事を、誰とするのか、自分で自由に決められます。サラリーマンがあらゆることを会社によって決められてしまうのと対照的です。
もっとも、自由だからこそ自己管理が求められます。主体的に計画をたてて業務をこなす力がなければ一人社長として経営を行うのは難しいかもしれません。
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5、一人社長のデメリット
(1)設立費用がかかる
会社設立には一定の費用がかかります。専門知識が必要となるので司法書士に依頼するのが一般的でしょう。その場合は通常の設立登記の費用に加えて司法書士への報酬も必要です。
具体的には株式会社であれば約25~30万円、合同会社なら約10~15万円となります。
(2)確定申告の難易度が高く税理士の依頼が必須
個人事業主であれば確定申告を個人が行うことも勉強を積めば可能でしょう。複式簿記の知識が必要になるものの、簿記2級レベルの知識があれば対応できます。
一方、法人の確定申告となると話は別です。税務署への提出書類も格段に増えますし、記帳も大量かつ複雑です。税理士に依頼せずに個人が行うのは無理があります。
毎月の取引の記帳は自分で行うとしても、税務申告の段階では税理士への依頼は必須となるでしょう。
(3)社会保険料の負担が大きい
一人社長であっても会社形態をとっている場合は健康保険や厚生年金への加入義務が生じます。社会保険への加入を怠ると遡って保険料を納めるなどペナルティを受けてしまいます。
健康保険は協会けんぽに加入するのが一般的です。 協会けんぽであれば一見、個人負担が少ないとも思えます。 しかし、一人社長の場合個人負担分に加えて会社負担分も 負担しなければなりません。結果的に国民健康保険よりも保険料が高くなってしまうのです。
年金は厚生年金に加入します。国民年金の保険料は約16000円ですが、厚生年金の場合は月収によって保険料も変わってきます。ただし年金保険料が高くなる分、将来受け取れる年金も上乗せされます。このため厚生年金への加入は必ずしも負担増になるとは言えません。
(4)営業や事務のリソース不足に陥りやすい
一人社長として経営を行っていると、事業規模が小さいうちは個人事業の延長として運営がなされているかもしれません。しかし、事業規模が大きくなるにつれて事務処理の限界もみえてきます。特に営業や事務は膨大な作業量を必要とする業務なのでリソース不足に陥りやすいです。
この時、必要なのが社長自身が行うべき業務と社長以外でも行うことができる業務とを切り分けることです。例えば営業や事務はマニュアルを作ることによって一般の従業員に任せることもできるでしょう。
一方、 経営判断のような重大事項の決定は社長が行うしかありません。そうだとすれば営業や事務は従業員に任せることや外注することで思い切った効率化のできる業務といえます。
6、こんな人には一人社長がおすすめ
(1)事業の拡大や将来の上場を目指している
大きな事業を行う場合、ベンチャーキャピタルや投資家から巨額の出資を受けることが必要です。出資を受けるためには社会的信用は必須の条件となります。
法人を作ると社会的信用も自ずと高まるのです。 会社形態で事業を行っていると一定の社会的信用を得ることができます。事業規模を拡大したり、将来の上場を狙う経営者にとっては法人化して社会的信用を高めるのが有効な方策となります。
(2)法律や会計の知識が豊富である
一人で会社を経営するとなると、会社法上の手続きや会計上の処理を自分で判断して行わなければならない場面もたくさん出てきます。
もちろん専門家に依頼して代行してもらうこともできます。しかし、経営者が内容を全く理解していなければ代行を依頼するという判断もできないでしょう。 何もわからずに丸投げしてしまうと思わぬ不利益を被ることもあります。
会社を経営する以上、法律や会計の知識が豊富であればあるほどリスク回避につながるということです。
7、まとめ
一人社長は、個人事業主とは異なり法人として取引の契約をして報酬を得ます。個人事業主から会社を立ち上げるのは手間も費用もかかります。また、税務申告が煩雑であったりや社会保険料負担も大きく、これらはデメリットといえるでしょう。しかし、社会的信用や節税 、有限責任という法律上の保護という点で法人には大きなメリットがあります。
一人社長として事業を行っていくうえでのメリットとデメリットを理解して、どちらが自分の事業に適しているか判断しなければなりません。その判断をするうえでこの記事が参考になれば幸いです。