【2024年度改正】賃上げ促進税制とは？中小企業が知っておきたい制度のポイント

​賃上げによる税負担を軽減する「賃上げ促進税制」が、2024年度の改正でさらに拡充されました。​中小企業が制度を最大限に活用するためのポイントや申請手続きの流れを詳しく解説します。​人材確保と企業成長を目指す経営者の方は必見です。

参照：ミラサポPLUS｜担当者に聞く「賃上げ促進税制」、経済産業省・中小企業庁｜中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック（PDF）、経済産業省｜賃上げ促進税制

賃上げ促進税制とは？

賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与を引き上げた際、その増加額の一部を法人税額または所得税額から控除できる制度です。​この制度は、従業員の所得向上と経済の活性化を目的として、政府が導入しました。​中小企業にとっては、賃上げによる財務的な負担を軽減し、持続的な成長を促す有効な手段となります。

対象企業と適用条件

賃上げ促進税制は、青色申告を行っているすべての企業と個人事業主が対象です。全企業向け、中堅企業向け、中小企業向けの3つの種類があります。このうち、中堅企業向けと中小企業向けは、対象となる企業や個人事業主に制限があります。

中小企業向けの賃上げ促進税制を利用できるのは、青色申告書を提出する中小企業者等です。​具体的には、資本金または出資金が1億円以下の法人や、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主、農業協同組合などが該当します。​適用期間は、令和6年（2024年）4月1日から令和9年（2027年）3月31日までの間に開始する各事業年度です。前年度よりも給与等の支給額を一定以上増加させたときに、その年度において税額控除を受けることができます。

※適用期間は、今後の税制改正などで延長されるなどの変更がある可能性があります。

税額控除の仕組み

賃上げ促進税制は、給与等支給額の増加額の最大45％（中小企業以外は最大35％）を法人税額または所得税額から控除できる仕組みです。ここでは、中小企業向け賃上げ促進税制の税額控除の仕組みを紹介します。

中小企業向け賃上げ促進税制では、前年度と比較して給与等支給額が1.5％以上増加した場合、その増加額のうち15％を法人税額または所得税額から控除できます。​さらに、以下の上乗せ要件を満たすことで、最大45％まで控除率を引き上げることが可能です。

• 賃上げ率が2.5％以上：控除率を15％上乗せ
• 教育訓練費が前年度比で5％以上増加：控除率を10％上乗せ
• 「くるみん」や「えるぼし（二段階目以上）」の認定を取得：控除率を5％上乗せ​

中小企業が把握しておきたい2024年度（令和6年度）税制改正のポイント

2024年度（令和6年度）の税制改正により、賃上げ促進税制は中小企業にとってさらに活用しやすい制度へと進化しました。​

繰越控除制度の導入

2024年度の税制改正により、中小企業向けの賃上げ促進税制に「繰越控除制度」が新たに導入されました。​これにより、賃上げによる税額控除額が限度額を超えて控除しきれなかった場合、その未控除額を翌年度以降最大5年間繰り越して控除することが可能となりました。

​この制度は、赤字決算などで賃上げ促進税制を効果的に利用できなかった中小企業にとって、将来的な節税効果を期待できる措置です。​繰越控除を適用するためには、各年度の確定申告書に「繰越税額控除限度超過額の明細書」などの必要書類を添付する必要があります。 ​

教育訓練費や女性活躍支援による上乗せ措置

同じく2024年度の改正により、税額控除率をさらに引き上げるための上乗せ措置が拡充されました。​まず、教育訓練費に関しては、前年度比で5％以上増加し、かつ当該年度の雇用者給与等支給額の0.05％以上である場合、税額控除率が10％上乗せされます。

​また、新たに「子育てとの両立・女性活躍支援」に関する上乗せ措置が創設されました。​「くるみん」認定や「えるぼし（二段階目以上）」認定を取得している企業は、税額控除率の5％の上乗せが可能です。

​これらの認定は、子育て支援や女性の職業生活における活躍推進に取り組む企業に与えられるもので、企業の社会的評価の向上にもつながります。

賃上げ促進税制が経営にもたらす影響

賃上げ促進税制は、単なる税制優遇措置にとどまらず、中小企業の経営戦略に大きな影響を与える制度です。​税額控除による財務面での効果だけでなく、人材の確保や定着といった組織面でのメリットも期待できます。​ここでは、賃上げ促進税制が企業経営にもたらす具体的な影響について解説します。

税額控除による財務改善効果

賃上げ促進税制を活用することで、中小企業は従業員の給与引き上げにともなう税負担を軽減できます。給与等支給額が前年度比で一定以上増加した場合、その増加額の一部を法人税額または所得税額から控除することが可能です。​この制度により、賃上げによる財務的な負担を抑えつつ、従業員の待遇改善を図ることができます。​

さらに、2024年度の税制改正により、控除しきれなかった税額は翌年度以降5年間繰り越すことが可能となったため、赤字企業でも将来的な節税効果を期待できる制度になりました。

人材確保と定着への寄与

賃上げ促進税制の活用は、従業員のモチベーション向上や企業への定着率の向上にも寄与します。​給与の増加は、従業員の生活の安定や満足度の向上につながり、結果として離職率の低下や生産性の向上が期待できるためです。​

また、教育訓練費の増加が税額控除の上乗せ要件となっているため、従業員のスキルアップやキャリア形成を支援することで、企業の魅力が高まり、優秀な人材の確保にもつながります。

賃上げ促進税制を実務で活用する際のポイント

賃上げ促進税制を効果的に活用するためには、制度の要件を正確に理解し、計画的な対応をすることが重要です。​特に、給与支給額の増加計画や教育訓練費の活用方法については、事前の準備と綿密な計画が求められます。​以下では、実務担当者が押さえておくべきポイントについて紹介します。

給与支給額の増加計画の立て方

賃上げ促進税制を最大限に活用するためには、計画的な給与支給額の増加が重要です。​まず、前年度の給与等支給額を正確に把握し、1.5％以上の増加を目指す計画を立てましょう。​さらに、2.5％以上の増加を達成することで、税額控除率が上乗せされ、より大きな節税効果が得られます。​計画的な賃上げは、従業員のモチベーション向上や企業の成長にも貢献します。

教育訓練費の活用方法

教育訓練費の増加も、賃上げ促進税制の上乗せ要件のひとつです。​​対象となる教育訓練費には、外部講師の謝金や研修施設の使用料、研修委託費などが含まれます。​これらの費用を計画的に増加させることで、従業員のスキルアップを図りつつ、税制上のメリットを享受できます。​教育訓練費の詳細な記録や明細書の作成・保存が求められるため、適切な管理が必要です。

賃上げ促進税制の申請や手続きに関して

賃上げ促進税制を効果的に活用するためには、制度の要件を正確に理解し、適切な手続きを行うことが重要です。​以下では、申請手続きの流れや注意点について詳しく解説します。

必要書類と提出時期

賃上げ促進税制を利用する際、事前の届け出は不要です。​しかし、適用を受けるためには、法人税（または所得税）の確定申告時に、確定申告書などに税額控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額や控除を受ける金額を記載するほか、以下の書類を添付する必要があります。

• 控除を受ける金額等の計算に関する明細を記載した書類
• 適用額明細書（法人のみ）

また、教育訓練費増加要件の上乗せ措置を利用する場合は、教育訓練等の実施時期や内容、期間、受講者、支払証明を記載した書類を作成し、保存する必要があります（提出は不要）。​繰越控除措置を適用する場合は、繰越控除額の記載と繰越税額限度超過額の明細書の添付が必要です。

注意すべきポイント

申請手続きにおいては、以下の点に注意が必要です。

• 青色申告の要件：​本制度は、青色申告書を提出している法人または個人事業主が対象です。​白色申告の場合は適用を受けられません。
• 書類の正確な作成と保存：​控除対象額や計算明細などの書類は、正確に作成し、適切に保存することが求められます。教育訓練費に関する書類は提出不要ですが、税務調査などで提出を求められる可能性があるため、確実に保管しておくことが重要です。
• 繰越控除の適用：​繰越控除を適用する場合、各年度の確定申告書に必要な明細書を添付する必要があります。​適用漏れを防ぐため、事前に税理士などの専門家と相談し、準備を進めることをおすすめします。

中小企業は賃上げ促進税制を賢く活用しよう

賃上げ促進税制は、中小企業が従業員の給与を引き上げる際の税負担を軽減し、企業の成長を支援する制度です。​2024年度の税制改正により、繰越控除制度の導入や教育訓練費・女性活躍支援による上乗せ措置が追加され、より柔軟な活用が可能となりました。​​

しかし、制度の利用には計画的な給与支給額の増加や教育訓練費の活用、必要書類の作成・提出など、煩雑な手続きがともないます。​​

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